歯科用金属の高騰による患者さんへの影響

こんにちは。三好歯科自由が丘 院長の三好健太郎です。
少し遅くなりましたが2026年初めてのブログになります。本年も何卒宜しくお願いいたします。
さて、今回は歯科用金属の値段高騰のお話です。患者さんが支払う金額ではなく、我々が材料として仕入れる値段の高騰の話です。
最近ネット記事としても多く書かれた話題です。その内容は“歯科用金属を用いた治療は逆ザヤ状態で、やるだけ赤字になる”という話です。書かれていることは全て事実ですが、実は2022年辺りから始まったウクライナ情勢の影響によって金属価格が大きく高騰し、その時も話題になり、最近でもまた大きく値段が高騰したため話題になりました。しかし、それだけではなく”実は何年も前から言われ続けている話”なのです。
今回はこの歯科用金属(主に金銀パラジウム合金)の高騰が皆様の治療にどのような影響を及ぼすかを書いていこうと思います。
歯科用金属ってそもそも何??
まず、歯科用金属と聞いた時皆様の頭に浮かぶのは「保険の銀歯」だと思います。この認識は間違っておりません。しかし、実際には歯科では様々な金属が使用されています。
ただ、今回は敢えて皆様に馴染み深い”むし歯を削ったところに装着する銀歯”にスポットを合わせます。実はむし歯治療で使う金属には保険診療においては3つ存在しております。
A:アマルガム
これはもうほぼ使われなくなりました。よく金属は海外で妊婦さんなどに禁止されていると言われたりするのはこのアマルガムのことです。
一部の歯科医師がセラミックをやるために声高に「海外ではもう禁止されている金属を日本はまだやっている」と叫んだため、誤解されている方もたまにいますが、そもそも日本でももうやりません。
B:銀合金
保険の銀歯と呼ばれるので「これが所謂銀歯のことでしょ?」と思う方は多いかもしれませんが、これは皆様にあまり入っていない金属です。
理由はすぐに黒くなってしまう(酸化)ことと強度不足(銀は脆い)、そして何より3つ目の今回の話題のメインとなる金属の方が強度もあり優秀な材料なのであまり使われなかったのです。この銀ですらも最近値段が大きく高騰はしました。
C:金銀パラジウム合金(通称金パラ)
この金属こそ、今回の話のメインとなる所謂皆様の知る”保険の銀歯”です。中身として銀が50%を占めますが、Bの銀合金(銀が70%)には入っていないパラジウムが20%、金が12%含まれております。この2つのおかげで、酸化しない=黒くならない、強度も出せるという極めてよく考えられた優秀な材料です。
この金銀パラジウム合金は60年以上日本人の治療を支えてきました。
皆様にとっては見た目が銀であるということで微妙な材料かもしれませんが、1961年に保険適用となったこの金属は、後述する保険の白い歯通称CAD CAMクラウンやインレーより見た目以外は遥かに優秀です。
何が問題になっているか

タイトルにある通り、この金銀パラジウム合金が2020年の自動車触媒需要によるパラジウムの需要大幅増加や、2022年以降のウクライナ情勢や歴史的な円安など、様々な理由からべらぼうに高くなりました。
金が高くなっていることは皆様ご存知の通りですが、パラジウムや銀までも高騰し、2000年頭にグラム単価1,000円~1500円で取引されていた(※後述しますが、この時点で都心部の歯科医師の中では高いと話題になっていました)金銀パラジウム合金が今では”約6,000円”になっております。単純に4倍以上です。
しかし、分かる方もおられると思いますが、歯科医院の窓口での負担金額が”2倍3倍になったことは無い”と思います。
そうです、今回の一番の問題は保険点数(診療報酬)がほとんど変わっていないということです。
つまり、仕入れ価格が4倍以上になっているのに売値はほぼ変わっていないという異常事態で、通常の商売なら起こりえないことです。
しかし、
・保険内で使用できるもう一つの材料「銀合金」は様々な不安要素があり、「金銀パラジウム合金」以外には選択肢がない(チタンブリッジについての追記もご参照ください)。
・後述するCADCAMはブリッジなど欠損歯があった場合に強度不足や適合の問題のため適用できない、もしくはしたくない事が殆ど。
・CADCAMはそもそもセラミックより歯を削るためケースによっては避けたい。
といった理由から、「金銀パラジウム合金」は替えがきかない材料となっています。
また、なにより一番の問題は、国が価格を決めている点です。
その結果、今の保険診療報酬の金額が材料費だけ見てもほぼ赤字、ましてやそこに本来考慮すべき接着剤などのコストや器具のコスト、人件費や家賃等の本来考慮されるべきものを含めると
金銀パラジウム合金を使用した治療は量が多くなればなるほど赤字である
という今回の逆ザヤ話へ繋がっていきます。
今回だけでなく、前から問題になっていた?
元々1961年の国民皆保険制度が始まる際”金合金(ゴールド)は高くて使えないから”という理由などから当時グラム100円ちょっとの金銀パラジウム合金が採用され、そこから一度も他の金属にするなどの話はなく凡そ60年以上放置されてきました。
その値段の変化と共に、まずは当院のような”都心部の歯科医院を中心”に、大きく2つの話題がなされてきました。
A:金属の値段が高く、診療をしても利益がほぼ出ないどころか赤字に
当然ですが、都心の方がランニングコストが高く、地方では利益が出ても都心では違うというケースは数多く存在します。保険診療というものは完全にそれに該当します。
私はブログでも動画でも、沖縄から北海道、東京の銀座でも日本全国どこでも同じ値段設定の保険診療制度は、そもそも壊れているとお伝えしております。
今回ほどの値上がりになる遥か前、2000年代頭に金銀パラジウム合金がグラム単価1,000〜1,500円ほどになった際に既に都心部の歯科医院の多くは”保険の銀歯は厳しい”という状況になっていました。
銀歯の取り扱いをやめる医院、保険診療を一部または全部やめる医院、様々な医院が現れました。それと同時に”銀歯は悪””銀歯はダメ”と誇張レベルで説明をする歯科医師も多く見受けられました。
皆様が”保険の銀歯は良くない””保険の銀歯はむし歯になる”とよく聞くようになったのはこの頃からではないでしょうか?これは単純にただでさえ薄利多売の考え方がベースにある保険診療が更に薄利多売になりやりたくないという歯科医院が一気に増加したからです。
B:利益が少ないと、短い時間で、多くの患者さんを診なくてはいけない
これもブログや動画(三好歯科 自由が丘 動画https://www.miyoshi-dental.net/aboutus/movie/)で発信をしておりますが、
元々都心部のように”歯科医院が多く家賃の高いところ”で歯科医院を建てる先生は「自費診療をメインとし、一人ひとり時間をかけてゆっくり丁寧に治療したい」という先生が殆どです。当院もそれに該当します。
しかし、前述の通り所謂保険診療メインの歯科医院では薄利多売方式の治療になり、かける時間を短く、下手をすると同じ時間帯に初めから複数人の患者さんを予約させ、平行して診るようなことが起こります。(関西の方ではたこやき診療と呼ばれるそうです)
当院に訪れる患者さんの転院相談で多い「歯科医師と喋る時間がほぼないから質問もできない」という話は、歯科医師が無理なアポイントを入れているからに起因しているのは明白です。
結局のところ、ひとり頭の時間を短くするということはその分治療や患者さんとの会話の質が下がることに他なりません。
少し脱線しましたが、このようにこの度の金属の異常な高騰より遥か前からこの”保険の銀歯”は話題にはなっておりました。
このような背景から保険の銀歯はやらない、出来ないという医院は今回の高騰より遥か昔から特に都心では珍しくありませんでした。
しかし、その理由を”銀歯が悪いものだから”と嘘の説明するのはおかしいと私個人は考えておりました。そのため、私は再三ブログや動画で”保険の銀歯は悪い、むし歯になるは嘘”であるという話をしてきました。薄利多売の質を落とした診療の中で使われることが多いから、結果として微妙になる事が多いだけなのだと。
そのため、2019年にオープンした三好歯科自由が丘でも昨年まで保険の銀歯(金パラ)を用いてきました。材料自体は素晴らしく、保険のCADCAMというプラスチックよりも遥かに優れた点が多かったからです。
今回の歯科金属の異常高騰によりもたらされたもの

しかし、今回の歯科金属の異常高騰は、都心で話題となっていた当時と比較しても、3〜4倍という前代未聞の数字となっています。そのため、都心部だけでなく、地方の歯科医院にまで影響しており、インフルエンサーのような先生方がSNSで保険の銀歯の取り扱いをやめると公表するケースも見られます。
このような状況は、歯科医療の歴史を振り返っても、極めて異例な事態と言えます。また、我々歯科医師と切ってもきれない”歯科技工士(簡単にいうと銀歯を作る人)問題”が追い打ちをかけます。
ただでさえ技工士さんの給与が低すぎて誰もなりたがらない、ベテランの人でさえ生活が厳しいという状況です。そんな中、歯科医師が赤字になるような仕事では、そもそも歯科医師の売上から支払われる技工料金=技工士がもらえる報酬が安すぎて受けられない、技工士側がお断りをするというケースも多発しています。対象は主に”保険の銀歯””保険の入れ歯”です。
(似たような記事はたくさんありますがそのうちの一つです。
『なり手不足と高齢化、歯科技工士不足で今後「入れ歯難民」の発生も…製作期間もますます長期化-読売新聞オンライン』
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20251017-OYT1T50210/)
その波は当院にも訪れ、元々ホームページに載せている歯科技工士は自費診療専門で、保険の技工物を作製している人が他におりましたが、結論、保険の銀歯と保険の入れ歯の仕事は基本的に受けないという状況になってしまいました。
よって、三好歯科自由が丘でも保険の入れ歯や金銀パラジウム合金を用いた治療を
”基本的にはやらない”
”歯科医師が特例と判断したもの以外はお受けできない”
という方針にせざるを得なくなりました。
しかし、当院では元々その方針的にも保険診療の患者さんは少なく、遠くない将来完全撤廃する予定(またその時は事前にしっかり告知いたします)ですので、大きな影響はないかと思います。
患者さんへの影響
これは当院へ通院している方だけでなく様々な方に同じように影響する可能性があります。
1本あたりの治療は金属ではない治療の方法がいくつか存在するため、そのケースにもよりますが選択の余地がないということはないでしょう。
しかし、歯を失った場合、よく言われる3択が入れ歯、ブリッジ、インプラントです。このうち、保険のものと自費のもの両方が存在し、保険適用内でも治せていたのが入れ歯とブリッジ、この時ブリッジに使われる材料は基本的に強度を含めて安心して使用できるものは金銀パラジウム合金となります(追記されているチタンブリッジもご確認ください)。
つまり、先ほどの保険の入れ歯や金銀パラジウム合金の治療の選択肢がないということは、歯を失った場合、”治療するなら自費しか選択肢がなくなる”ということが現実味を帯びてきます。
今回の歯科金属の異常高騰は、もはや都心部だけでなく、地方を含めた多くの歯科医院が今までは仕方がなくでもやっていたメニューをやめざるを得ないレベルのものです。これから国の定める保険点数の大きな改訂(値上げ)があったとしても恐らくこの傾向がひっくり返ることはないと思います。
日頃からいかに歯科医院へコンスタントに通っているか、そもそもちゃんとした歯科医院を選べているか、この辺りが大きな分岐点になると思います。
また、歯磨きをしていれば、メンテナンスに通っていれば、全てが守れるわけではありません。元々の歯並び、習慣、何より”過去に受けた治療のクオリティ”が大きくその予後を左右します。
現在の歯の状態や治療相談などありましたらお気軽に三好歯科自由が丘へお越しください。長文をお読み頂き、ありがとうございました。
三好歯科 自由が丘 院長 三好健太郎
追記
このブログを書いた翌日、令和8年度の保険改訂の情報が全てではありませんが公表されました。
その中に、金銀パラジウム合金を使用した治療点数の増加、及び前々から言われていた別の金属(チタン)を用いたチタンブリッジというものに関しての発表がありました(単独のチタン冠は既に存在しております)。これは金銀パラジウム合金のように高い金属ではなく、口腔内に使用できると認可された金属です。
今回の診療報酬改訂で多少金属の材料価格が上がりましたが、とてもこのブログで述べた問題を解消できるものではなく、焼け石に水です。そのため、今のところ、特に本ブログで記載した内容を訂正することはございません。
また、結論としては三好歯科自由が丘では上記で記載した方針の変更はなく、このチタン冠及びチタンブリッジを積極的に使用する予定もありません。
理由は大きく2つです。
1,適合が悪い
前から申し上げておりますが、歯科治療における最も重要な要素は適合です。
保険診療の時点で様々な要素で適合には不安が出ますが、チタンはその取り回しの難しさや加工の難しさから更に問題が出る可能性が高いです。
インプラントのネジに使われているチタンですが、いわゆる被せ物としての加工はかなり難しいです。
2,扱える技工所の問題
先程申し上げた通り、チタンは加工が非常に難しく技工士側も加工するために専用の機械が必要となります。これが非常に高額で、しかもこのチタン冠のためだけに買わなくてはいけません。
今回メインの議題ではありませんが、前々から歯科業界にある、解決される予定すら見えない“技工士問題”を背景に抱えながら、安々と導入できるものでは有りません。
また、都心の歯科医院の多くやその先生たちとタッグを組む歯科技工士は自費診療という“高単価で自分の技術をしっかりと発揮できる”場を自らの裁量で選択して仕事をしている、所謂職人タイプの方が殆どです。
そのような中で、高い機械導入コストを負担しつつ、保険診療のため、ましてやチタン冠という限定的な仕事のためにこの機械を導入することは非常に難しいと言わざるを得ません。
少なくとも、当院が連携している歯科技工士がこの機械を導入する予定は今のところございません。

